「おひなさまの扇子、もう飾りましたか?」
2月の終わり。実家の母親から来たメールを見るまで、その存在をすっかり忘れてしまっていた。
1月の一時帰国時に、母親から手渡された記憶はある。「ハンガリーにいても日本を感じられるように」と。昔実家でも飾っていた時期があったようだ(離れて暮らしていたので私はよく憶えていないのだけど)。
でも、ブダペストに戻る荷物の中に、それを入れた記憶は全くなかった。というか、大きい方のスーツケースも小さい方のスーツケースも既に中身を空にしていてそれでも気づかなかったのだから、つまりはこちらに持ってきていないということだ。
念のため、日本から持ってきた荷物をしまった場所を片っ端から確認してみたが、やはりどこにもなかった。一番可能性が高いのは、実家の自分の部屋に置いてきたということだ。母親に、なんて返信しよう。
ふと、ある可能性について閃いた。もしかしたら日本を発つ前に船便で送った荷物の中に入っているかもしれない。
「船便の荷物の方に入れてしまったようで、残念ながら、まだ届いていません。せっかく持たせてくれたのにごめんなさい。」
母親としては、返信とともに送られてくる扇子を飾っている写真を楽しみとしていただろうし、もちろん謝罪の言葉も付け加えた。
それから数週間。帰宅するとポストに荷物が届いたとの伝票が入っていたので、郵便局の小包センターまで取りに行った。
開封するまでは、実家の部屋に置いてきた確率の方が高いと思い、そしたらそれでもう一度謝罪しようと決めていたのだけど、実際ちゃんと中に入っていたので安心した。
そして、すぐに写真を撮って母親にメールを送った。
折しも3月30日は、旧暦の桃の節句。旧暦の方には間に合ったということだ。
ちなみに船便の荷物にはどうせ届くのに数ヶ月かかるのだから、「絶対すぐには使わないもの」ばかりを入れていたのだが、別にこの扇子もそう思って入れたわけではない。私のミスだ。
ただ、もしかしたらこちらに持って来ようと思っていた物の中に、まだ実家の部屋に置きっぱなしのものもあるかもしれない。記憶が定かではないからだ。その点については母親とのやり取りの中では絶対に触れないようにしている。